ビジネス書

職業”振り込め詐欺”が想像以上に凄い

職業”振り込め詐欺” (ディスカヴァー携書) [新書]NHKスペシャル職業”詐欺”取材班 (著)を読んだ。
本書からは、「ビジネスとしての振り込め詐欺」という感覚と、「時代、罪悪感、価値観の変化」という感覚を持った。

そういう観点から、本書をいくつか抜き書きしていきたい。

「ビジネスとしての振り込め詐欺」

”詐欺の男”タカハシは、振り込め詐欺の拠点のことを「店舗」と呼ぶ。
また、タカハシは、3人の仲間とともに、朝9時から夜9時まで、1日12時間、地方のお年寄りにだましの電話をかけ続けたという。ノルマは一日200万円。

「だいたい1日にかけるのは、200件とか300件とか。もう普通のテレアポみたいな仕事ですよ。遅刻したら、その日の取り分はなしで。時間厳守で、普通の会社並みに、うるさくやってましたね」

こういうことは、まさに一般の企業の営業組織さながらだ。
彼らにしてみれば、オモテ社会もウラ社会も同じようなものだそうだ。

「不動産で言っても、営業マンは、ここは道路が拡幅されるから”買い”ですよと言って買わせといて、計画がなくなっちゃったって言って売っているやつもいるんで。
買わせてなんぼ、売ってなんぼという意味では、結局は人をだましていることに変わりはない、商品はありますけど、同じじゃんって」

「完全な詐欺じゃないけど、詐欺的な感じですよね」

振り込め詐欺そのものも、通常のビジネスとほとんど変わらない。
それだけではなく、ここで問われているのは、一般のビジネスと詐欺との境界線だ。

元振り込め詐欺師が語ったように、完全な詐欺ではない。
それは、商品があるからだ。
ただ、それをウソついて買わせる、商品そのものがインチキ、そういうビジネスもある。

そうなると、彼の言った「詐欺的な感じ」だ。
たしかにビジネスではある。
しかし、そのビジネスと詐欺との境界線は非常にあいまいなものだと感じる。

「時代、罪悪感、価値観の変化」

十数の詐欺グループを統括しているという男”顧問”の話。

31歳。
もともと、東京の六大学を卒業。
数年前まで一部上場の一流企業に勤めていたという。
とにかく頭の切れる人物だ。

携帯電話やATMの仕組みを熟知した上で、警察の捜査の手の内まで読んで逮捕を免れようとする。

筆者が聞く。

「職に困った人間というのは、かわいそうと思わない?」
「まったく良心痛まないですね。
世の中、もう中流階級はいないんじゃないですか、日本には、もうカネ持ちか”コジキ”しかおらんのですよ。”コジキ”になる人間なんですよ、こいつらは。

いわゆる金持ちの”セレブ”か”コジキ”しかいない。中間層がいない世代なんですよ。この世代が、僕らの世代なんです。
だとしたら、”コジキ”になるか、”セレブ”になるかの、どっちかですからね。だとしたら、もう手段は問わないですよね。次から次、電話しまくってって、オレオレしまくれと」

背景にある時代観。
金持ちになるか。貧乏人になるか。

ホリエモンに代表される、金持ちセレブの生活がフィーチャーされて、憧れを集める一方。
就職難で、食うや食わず、ネットカフェ難民となる人もいる。

そういう両極端、二極化の時代。
格差社会。

そういうことが背景にある。
そういう時代だからこそ、コジキになるのを避けるには、這い上がるしかない。

這い上がってセレブになるには、手段は問わない。
なりふりかまわず、オレオレ詐欺を繰り返す。

カネこそすべて。手段は選ばない。
そういう価値観を生み出した時代の徒花。

そういう気がする。