伝統的建築

佳水園:村野藤吾

京都の宿泊先に選んだのは「佳水園」です。

佳水園とは?

「佳水園」は日本モダニズム建築で有名な建築家、村野藤吾の設計で1959年(昭和34年)に建設された建物。日本伝統の数寄屋風造りの典型を踏襲しつつ、モダニズムが織り込まれた和風館。戦後の数寄屋造り建築の傑作としても知られているそうです。

ちなみに建築家の村野藤吾は福岡県北九州市で育ち、福岡県小倉工業学校(現小倉工業高校)機械科を卒業後、八幡製鐵所に入社という経歴。福岡とも縁深い方なのです。

実はこの「佳水園」、ホテルの別館です。ウェスティン都ホテル京都の別館で、このホテルの敷地内に別棟として建てられています。ホテル内、日本旅館です。全20室。

ウェスティン(Westin)」というブランドネームからもわかるように、全世界でホテルを展開する外資系ホテルグループのスターウッド・ホテル&リゾーツ・ワールドワイドのホテルのひとつ。
全体は「ウェスティン(Westin)」という高級ブランドなので、入口は現代的な高級ホテルロビーから。現代的な高級ホテルです。

ウェスティン都ホテルロビー

そこからは、エレベーターで7階まで移動して、そこから歩いて地上に出ます。そこから徒歩で佳水園の玄関まで移動。客室へと入ることになります。手間がかかります。住まいの建築研究のためには、努力は惜しみません。

佳水園に入る

現代的なホテルから抜けていくと、日本伝統な趣の門が。

門をくぐると、目にするのは中庭。

そこを左に折れると、玄関です。玄関をくぐった後、佳水園のロビー。床はホテルなので、カーペット敷きですが、木の風合いと塗り壁の色がマッチしています。

客室内は、まさに純和風の日本旅館。ホテル内旅館という代物です。外資系ホテル内にある著名建築家の作品たる日本旅館で宿泊というなんとも面白いかたち。客室はドアを入って、玄関、次の間、洗面室、浴室、トイレ、主室。主室は畳敷きで、床の間もあり、きれいにされています。

浴室は檜風呂。ただし、ホテルほど設備がよくないので(まあ、古いですから)、寒かったり、シャワーも小さかったり。

客室内は、さすがに50年以上経っているだけあって、寒い(冬に行ってますので)。50年前の建築物に断熱性を求めるほうがおかしいですが、主室でガンガン暖房をかけていないと寒いです。基本的に、ホテルの他の部分と違って、この別館は断熱されてないと考えていいかもしれません。

たとえば、主室には奥に応接セットのある板間があるのですが、そこにいられないほど寒い。そこに障子をすっと閉じると、冷気が格段に減ります。障子のすごさを体感します。障子一枚を隔てるだけで、環境は変わります。洗面室も外に近いほど寒い。しょうがないですが。

さて、ホテルではないので、ベッドじゃありません。では、何で寝るのでしょうか?
「ふとん」です。

外資系ホテルで、「ふとん」。ウェスティンは「ヘブンリーベッド」を売りにしています。安らかな眠りを提供する天国のようなベッドというわけです。では、この佳水園は?「ヘブンリーふとん」です。日本では他にないかと思われます。珍しい。

「ヘブンリーふとん」は、人間工学に基づいて開発された高さ30cm、長さ200cmのしっかりとした厚みとゆったりした大きさが特徴の3分割5層式フェザー羊毛ふとんとのこと。厚みあるクッションの入ったふとんでした。

最後にこの佳水園の最も印象的な部分「中庭」についてお話します。
佳水園の建築物そのものと同じように素晴らしいのがこの「中庭」。
この「中庭」は白砂敷きで、豊臣秀吉自ら設計したといわれる国の特別名勝、醍醐寺三宝院の庭を模して造られたそうです。平安神宮などの庭園で知られる小川治兵衛の長男、白楊が手がけたもの。

石でデザインすることで浮かび上がる、悠然とした水辺、そして、島。佳水園の建築物と相まって、日本の美しさが伝わります。

やはり、外構と建物は一体として考えるべきですね。単に建物をつくるだけでは、未完成。外構デザインとの調和で、居心地のいい素晴らしい住まいが誕生するのだと再認識します。

都ホテル和風別館「佳水園」
設計:村野藤吾/村野・森建築事務所
所在地:京都府京都市東山区三条蹴上
用途:ホテル
竣工:1960年(昭和35年)
延床面積:16600m2